操作画面がふだんの言葉になった。それで何が変わるのか
これまでの道具は、まず自分の言葉づかいを覚えるよう求めてきました。メニュー、設定、ファイル名、押す順番です。いまは道具の側があなたの言葉を受け取ります。やりたいことをふだんの言葉で伝えると、以前は勉強しなければならなかった部分を引き受けます。
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実際には、何が変わったのですか
先週のくしゃくしゃの領収書に、スマートフォンのカメラを向けます。「これは何の支払いで、いくらですか」と打ちます。数秒で、ふだんの言葉で答えが返ります。メニューはどこにもありません。先に覚えることもありません。
少し前まで、同じ問いは作業でした。写真を切り抜くアプリを開き、文字を取り出す別のアプリに渡し、表計算に貼って、正しい数式をメニューから探す。しかもソフトごとに言葉づかいが違い、更新のたびに変わりました。
変わったのは、ソフトが賢くなったことではありません。ボタンの場所を覚える役目が、あなたから外れたことです。人に話すときの言葉のまま伝えれば、そこから先は道具の仕事になります。
この差は、規模の小さい商売ほど大きく効きます。担当者を置ける会社なら、覚える負担を誰かに寄せられました。ひとりで回している商売には寄せる先がなく、だからこそ入り口が下がった効果を最も強く受けます。
「何を聞けばいいか分からない」ときはどうしますか
ここは正直に書きます。ふだんの言葉が使えるようになって、「どうやるのか」という問題は消えました。代わりに別の問題が現れます。「そもそも何を聞けばいいのか」です。
研究の分野では、白紙の問題と呼ばれます。メニューやボタンには、少なくとも選べるものが並んでいました。空の入力欄には何も並んでいません。これは、この章の主張に対する本物の反論であり、売り手がまず言わない部分です。
抜け方は、思っているより単純です。隣に立っている友人に尋ねるとしたら、どう言うか。その言葉のまま打ってください。命令の形にしなくてかまいません。「これは何の支払いで、いくらですか」で十分です。
前の章の宿題がここで効きます。今日は答えられない問いを三つ書いて、一つに丸をつけました。あれが、白紙の問題に対するあなたの答えです。聞くことは、すでに手もとにあります。
どのくらい速く、どのくらい良くなるのですか
測った研究がいくつかあり、どれも同じ方向を指しています。
2023年にScience誌で発表された研究では、453人の職業人が、仕事に即した文書作成をAIの助けを借りて行い、所要時間が40パーセント短くなり、評価された品質は18パーセント高くなりました。そして伸びがいちばん大きかったのは、それまでの評価がいちばん低かった人たちでした。
5,179人の顧客対応担当を調べた研究では、1時間あたりの解決件数が平均で14パーセント、最も経験の浅い担当では34パーセント増えました。最も経験のある担当にはほとんど変化がありません。入って2か月の担当が、道具なしの6か月の担当と同じ水準に届きました。
この二つを重ねると、ひとつの性質が見えます。この技術は、経験の差を広げるのではなく縮めます。これは珍しいことで、大きな会社よりも、ひとりで回している商売にとって意味が大きい理由でもあります。
AIが間違えるのは、どんなときですか
はっきりした形で測られています。758人のコンサルタントを対象にした事前登録の研究では、AIの能力の内側にある作業では、こなした件数が12.2パーセント多く、評価者による品質評価は40パーセント高くなりました。
ところが、能力の外側になるよう意図的に置かれた作業では、AIを使った側が、使わなかった側より成績が悪くなりました。研究者はこれをぎざぎざの境界線と呼んでいます。能力はなだらかに落ちるのではなく、途中で途切れます。
ここから言えるのは、大事な技術は上手な聞き方ではない、ということです。自分がいま境界線のどちら側に立っているかを見分けること、そして確かめることです。答えは、必ず自分の紙と突き合わせてください。
フィリピンでは、AIの道具を使っている企業は14.9パーセントで、パソコンを持っている企業は90.8パーセント、インターネットがあるのは81パーセントです。足りていないのは手段ではありません。確かめ方を誰も教えてこなかったことです。
今日、10分で何ができますか
この章が残していく技術は一つです。スマートフォンにすでに入っている助手に、人に話すときの言葉で尋ねてみること。
やり方はこうです。10分かかります。新しいアプリは入れません。
1. カメラロールから、領収書の写真を一枚選びます。どれでもかまいません。 2. その写真から知りたいことを、友人に言うときの言葉で書きます。「これは何の支払いで、いくらですか」でも、「日付はいつですか」でもかまいません。 3. そのまま尋ねます。 4. 返ってきた答えを、写真と一行ずつ見比べます。合っていたことを一つ、気をつけたいことを一つ、書き留めます。
この最後の一手が、いちばん大事です。答えを読むことと、答えを確かめることは別の技術で、身につける価値があるのは後者のほうです。速さは道具が持ってきます。確かめは、あなたが持ち込みます。
そして確かめてみると、多くの場合それは数秒で終わります。見比べる先が、自分の写真だからです。
FAQ
- ふだんの言葉で聞けるなら、もう覚えることはないのですか。
- 操作の覚え方は要らなくなりました。代わりに要るのは、何を聞くかを決めることと、返ってきた答えを確かめることです。前者は白紙の問題と呼ばれ、後者は身につける価値のある技術です。
- AIの答えは、どのくらい信じてよいですか。
- そのまま信じないでください。能力の内側の作業では成績が上がりますが、外側に出ると、使わなかった場合より悪くなることが測定されています。自分の紙と突き合わせるまでは、答えは下書きだと考えてください。
- 経験の浅い人ほど効果が大きいというのは本当ですか。
- 測定ではそうなっています。文書作成の研究では、それまでの評価が低かった人ほど伸びが大きく、顧客対応の研究では、最も経験の浅い担当で34パーセント、最も経験のある担当ではほとんど変化がありませんでした。
- 新しいアプリを入れないと始められませんか。
- 始められます。スマートフォンにすでに入っている助手で、この章の練習はすべてできます。道具を増やすのは、書き出した問いに答えるためだと分かってからで十分です。
- 何を聞けばいいか思いつかないときはどうしますか。
- 隣に立っている友人に尋ねるとしたら何と言うか、その言葉のまま打ってください。命令の形にする必要はありません。前の章で書き出して丸をつけた問いも、そのまま使えます。
出典
- Noy & Zhang, Experimental evidence on the productivity effects of generative artificial intelligence (Science, 2023)
- Brynjolfsson, Li & Raymond, Generative AI at Work (NBER Working Paper 31161)
- Dell'Acqua et al., Navigating the Jagged Technological Frontier (Harvard Business School / BCG)
- フィリピン開発研究所 (PIDS)「フィリピン企業・産業のAI導入readiness」


